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総合学術データベース:時評欄(76)ホ-ムペ-ジ用;池上惇「新聞紙上に、ウェルビ- イング論が登場した」
翻訳が難しい「ウェルビ-イング=well-being」「happiness」「welfare」
2022年3月28日付『日刊工業新聞』、4ページ、「ひとカイシャ交差点」「異見卓見」欄に、ヴェオリア・ジャパン会長、野田由美子先生が「分散型社会が拓く未来-ウェルビ-イングを軸に」を公表された。
従来の日本社会では、「よりよき文化的な人生」「幸福」や「生活の質」などの新たな指標で国際比較をする報道・論評は極めて少ない。文化経済学を専攻する有識者は多いのだが、積極的に発言することは稀である。新聞報道も、経済の発展と言えば、GDP(国内総生産)指標が中心となってしまう。
それだけに、「人生における、行為や行動における倫理性の水準が高いこと」を意味し、「人間の生命や生活の基本に関わる」こと。すなわち、「ウェルビ-イング=well-being」を自由に論じる雰囲気には乏しいと言わざるを得ない。
歴史的な文脈を重視して編集された、オクスフォ-ド辞書を参照すると、well という言語における、基本となるのは、泉(spring)や、源流であり、ここから、「倫理性を含む、人間発達を身につけた、人格の高さを備える」という意味を持つ。そして、being は、人としての存在や実行を意味する*。
*C.T. Onions, revised & edited, The Shorter Oxford English Dictionary, Vol.Ⅱ、Clarendon Press・Oxford, 1973. pp.2525-2527.
現在、日本の経済学界においては、A.センなど、新厚生経済学や、行動経済学の研究者による、幸福研究が進められており、国際的な研究成果を吸収し、翻訳しつつ、学習する機会が拡大しつつある。
倫理という、人間本来の姿に注目しつつ、同時に、従来の、効用研究における枠組み(商品の購入と同時に欲求は充足されたというサムエルソンの前提)を改革する動きは、いま、国際的な新潮流となっている。
この御論考を契機として、今後の、日本社会における「ウェルビ-イング」研究が、さらに、深まること期待する。
(©Ikegami,Jun.2021)