文化政策・まちづくり大学

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総合学術データベース:時評欄(64)ホ-ムペ-ジ用;池上惇「脱炭素に向けた取り組みと、公共政策の根本的な見直しをめぐって」

はじめに-ケインズ革命批判と、脱炭素の課題

早くも、9月に入った。

8月21日には、池上が88歳、米寿だということ、と、アカデミア賞受賞を記念するという事で、荒木一彰君や、中谷武雄先生、金井萬造先生の御高配で、150名以上が参加される、オンラインでの集会が開催された。貴重なメッセージも頂戴して感激している。

望外の幸せな時間であり、これまでに、達成された「学校づくり実験」や、文化政策・まちづくり大学院大学(通信制)の創設活動が実を結び、成果をご報告できる、有難い機会でもあった。その折の記念講演梗概は、前回の時評欄で公表してご意見を伺った。

池上の「ケインズ革命論批判」は概ね、好評で、ご激励を頂き、感謝あるのみであった。

ただ、その際、コメントとして、多かったのは、「君のケインズ批判は、納得できるが、いま、喫緊の課題となっている『脱炭素社会の構築』活動と、どの様に関わっているのか、説明は欲しい。と、いう点であった。

今日は、この課題との関係について、考えてみたい。

 

ボールディングによる、新たな「生産の三要素」=ノウハウ、物質、エネルギ-

故ケネス・E. ボールディングは、経済学の新たな枠組みを提起した点でも、画期的な貢献を行った。それは、従来の通説、生産の3要素は、資本・労働・土地所有であるとする学説を批判し、「ノウハウ・物質・エネルギー」であるとしたのである。

この新たな定義は、資本・土地所有を「物質」として特徴づけ、労働よりも、人間存在を重視し、その中でも、「ノウハウ」という表現によって、創意工夫や創造性などの「人間の構想力」に注目している。構想力のない、労働などは、考えられないので、人間の全体性や、全人格性を重視した表現と言えるであろう。

彼の生きた時代は、生命科学の大きな進歩があり、DNAの発見や、受精による精子と卵子の融合や、遺伝情報の伝達など、「生命の設計図」に関する知見が広がった時期に当たる。

彼は、生命の設計図が、受精を通じて、次世代に伝えられるという事実を目の当たりにして、人間が、次世代に、生産のための青写真や設計図、さらには、人類が生み出した、文化や文明を伝達するとき、そこには、「学習」という事実があることを発見した。そして、学習の時間や空間・場を法や社会制度、習慣などによって確保することが、文化や文明の世代間継承や伝達には不可欠であると考えたのである*。

*池上惇「文化システムと社会進化の経済学」進化経済学会編『進化経済学とは何か』有斐閣、164ページ以下。

彼の新たな生産の三要素は、ノウハウがってこその、物質やエネルギーである。生産活動において、人間は、構想力を発揮して設計図を作成し、物質を生物として育成したり、化学的に合成したり、物理的に加工したりする。その際、道具や機械を用いるときには、人間自身の持つエネルギーを自ら供給して消費し、機械を動かすエネルギーを独自に生産し、消費する必要がある。

産業革命期には、石炭を燃焼することでエネルギーを得てきた。鉄道を動かし、鉄を生産するにも石炭は不可欠であった。1920年代に自動車が交通手段の主役となり、内燃機関が普及すれば、第二次世界大戦後には、石油エネルギーの時代が訪れる。同時に、これらのエネルギー資源は、生産と消費において、地球温暖化の原因となる、巨大な量の二酸化炭素を生み出した。ここに、「『脱炭素社会を構築し得るノウハウ』を生み出す人間の力量」が問われることになったのである。

 

「『脱炭素社会を構築し得るノウハウ』を生み出す人間の力量」を持続するには

脱炭素社会を実現するという、アメリカ合衆国や日本政府の方向性は、それ自体としては、喫緊の課題への応答である。同時に、この課題は、人間が生み出す「ノウハウ」とかかわっているので、2030年とか、2040年などの目標を掲げるだけでは実現するわけではないことも明白である。

『脱炭素社会を構築し得るノウハウ』を生み出すには、何よりも、義務教育の段階からの「創造力を生み出す人間を育てる」必要がある。しかし、残念ながら、日本の教育の現状は、受験競争に明け暮れてはいるが、欧米に比べても、「自分の頭で考える機会」が少ない。

高校に進学すれば、受験の雰囲気が一層、厳しくなる。義務教育段階では、地域の祭りや体験学習の機会が残っているが、高校段階では、ほぼ、なくなってしまう。辛うじて、専門高校だけは、研究開発の芽が残されていて、希望が持てるが、偏差値では厳しく位置付けられてしまう。このような受験一辺倒をなくす方向を是正しない限り、脱炭素社会への道のりは見えてこないのではないか。

 では、どうすればよいのか。どこから手を付ければよいのか。今日は、この点に立ちってみよう。

(Ikegami,Jun©2021)

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