お知らせ
総合学術デ-タベ-ス:個人別研究内容(18)阿部弘 先生;「経済学」の体系=[市民大学院教学システム講義要綱(2020/08/29) 」
経済学の概念を各言語ごとに研究して総合化する
阿部弘先生は、東京都立大学に、ご在籍であった故林栄夫先生から学ばれ、独自の経済学体系を確立された、日本を代表する経済学者、駒澤大学名誉教授である。
経済学の概念を克明に、各国の言語を通じて総合的に解明される研究スタイルは、林先生とも共通しておられ、ご研究の基礎には、豊富な経済学文献の収集がある。
一般社団、文化政策・まちづくり大学校の蔵書には、森島文庫と並んで、阿部蔵書があり、ともに、世界に類がない。いずれも、ご定年後にご寄付をいただいた。
阿部蔵書の特徴は、日本社会が明治以降、経済学用語を海外から取り入れつつ、研究してきた成果を集積する蔵書や、世界主要各国語での経済学の用語に関する文献を丁寧に集積されていることである。
その意味では、阿部先生の市民大学院ご講義録には、いつでも、先生の研究成果が反映されており、常に、新たな発見があり、学ぶべきものが多い。
わたくしも、健康が続く限りは毎回、出席して、学習した。
自然生長に関するご研究
阿部先生のご研究の中でも、自然生長に関する研究から、貴重な学びを頂戴した。
その核心は、本文にも指摘されているが、「自然生長」的なものを生活の指針とするゲルマン的な思惟体系の成立は、経済研究にとって画期的な意味を持つことである。
ドイツ人の生活が森を友としていることや、いたるところに、子供たちの楽園ともいうべきものが存在することは誰でも知っているが、これが経済学の概念の成立と、どのようにかかわっているかは多くの人々には関心がない。
しかし、阿部先生は、このゲルマンの生活様式において、自然生長的なものを価値あるものとして、生活の指針としていることに注目された。自然の中で暮らし、自然とともに、子供や人々が成長することが「自然生長」であるとすれば、これを指針として、自然環境を傷つけずに、猛威を制御しつつ、共生しながら、自然の発展方向にしたがって、自然を改造することになる。ゲ-テの『ファウスト』には、人を金銭欲の塊とし、ついには、自然破壊にひきこんで墓を掘らせ、彼を破滅させる悪魔と、悪魔を組み敷く人間が登場する。
人間は、墓ではなく、溝を掘って自然の原理を生かした「自然と共生する開発」によって、悪魔の誘惑をくじき、悪魔を組み敷く情景が描かれている。
自然と共生し、自然の理を生かした治山治水事業こそ、個々人の生活を支え自然の猛威を制御しうる。
この習慣には、継承や創造性が含まれ、人間が自然とともに、生活する中から、共生しつつ、自然や環境との対話の中で、人間性をはぐくみ、集団形成の中で、自然の理を生かした開発によって、個人としても、人格としても成長してゆく人間に注目される。
人間は、他の動物と違って、生存競争のなかで淘汰される存在ではない。
人間は、人間同士の共生や自然との共生関係を構築しうる力量を潜在的に持っており、これは、ある種の学習力を意味する。
しかも、この力量は、人間が居住する各国において、言語の差異や自然環境の差異によって、著しく、多様化している。言語を通じて多様化の実態を探りながら、共通性を発見してこそ、経済学は科学として成り立つのではないか。
しかし、いま、経済学として人々の前にあるものは、生存競争を肯定し、人を「モノ」として扱う非情な動きである。このような経済学を根底から批判して、新たな経済学の体系を構築する。ここに、阿部先生のご研究における真髄があるというべきであろう。
阿部先生のご研究には、非常に大きな困難を恐れず、正面から立ち向かわれる迫力がある。
今後も、引き続いて学習・研究してゆきたい。
(© Ikegami, Jun)