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池上・総合学術データベース:時評欄(46);「MMT理論を再検討する」2020年6月20日
MMT理論-回顧と、批判的なコメントをめぐって-
最近、米国と日本の株価を支えるMMT理論という新聞記事が現れるようになった(例えば、「米国株 MMT理論が支えか」『日本経済新聞』夕刊、2020年6月13日付、2ページ)。日米の中央銀行が赤字財政と大規模公債の発行を容認し、大量の公債引き受けと、銀行券の増発を継続中である。戦時中やコロナ禍で、食料供給・原材料供給などが不足しがちな時に、このような政策は、国家破産と、食料価格・原材料価格の高騰を招いて国民生活を傷つけかねない。非常に危険な状況に直面している。
以前、この時評欄で、MMT理論を取り上げて検討したことがある(時評欄{17}以後を参照)。
その際、わたくしは、現代経済が多品種少量生産を基軸とするので、「質を問わない‘量’を増やす課題解決方法」に疑問を呈した。‘量’を増やせば課題が解決するという安易な方法は、現代経済には通用しないのではないか。
例えば、政府が赤字公債を発行して、財政規模を大きくし、「量」を提供すれば、経済の回復が期待できるかのような錯覚である。
以前の時評から引用しよう。
「この理論を深く理解しておけば、創造経済の持つ特徴が、よりよく理解できるようになるのではないか。私は、このように考えて、MMT=現代貨幣理論(Modern Monetary Theory)を取り上げて検討することにした。
最近の新聞記事で、この問題に触れたのは、2019年7月10日づけ、朝刊『朝日新聞』7ページであった。そこには、ヨーロッパ中央銀行前総裁、ジャン クロード・トリシェ氏の写真とコメントが紹介されていた。曰く。
「(MMT)は、とてもとても危険に見える。MMTの考えは非常に大胆で大衆受けもよい。」 しかし、「この考えはもろい。世界のほかの国が、ドルや円など、その国の通貨を信任してくれるという考えを前提にしたものだ。しかし、(中央銀行が赤字公債などと引き換えに、紙幣を発行して国家が)際限なくお金を使い続ければ、どこかの時点で懸念が高まる。自国民からも信頼を失い、リスクがもたらされることもある。」
同氏の、このような厳しい警告は、赤字公債を日本銀行が引き受け、その対価として、日本銀行券を発行し続けている「日本銀行」の金融政策にも向けられている。
ここで、リスクというのは、政府の債務が累積して、国債への利子が支払えなくなり、慢性的な不景気の中で、限られた税収を基礎とした国家財政では、公共サービスも提供できず、国債利子も支払えず、国家が破産状態に陥ることを指す。
国家が破産すれば、本来は借金である赤字公債を租税によって、返済することは不可能であり、租税で、債務を返済できない国家は、赤字公債と引き換えに発行してきた日本銀行券に対する、自国民や諸外国からの信頼関係を維持できなくなる。
そのとき、例えば、日本社会はどうなるのか。これが、創造経済の構築とは、真逆の「信頼関係がないのに、日本銀行券を増発しつつづける中央銀行」の行為がもたらす「紙幣量産型経済」の末路である。」
今回のコロナ禍対応でも、国民一人当たり10万円とか、無利子無担保融資をすべての中小企業に、などの貨幣量を財政から提供する方法が登場した。緊急性という点ではやむを得ない面もあるが。同時に、いま、日本の国民が直面している生活困難は国民の各階層ごとに多様化し、中央政府から画一的に対応できるような単純なものではないことも事実である。
では、どうすればよいのか。
今日は、この問題を改めて考え見よう。(Ikegami, Jun ©2020)