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池上・総合学術データベース:時評欄(44);「在宅勤務で支配中心型人事管理から脱却できるか」2020年6月5日
M.ウェ-バ-「支配の社会学」は、コロナ後に変化するか
立命館大学総合心理学部の高橋潔教授は、『日刊工業新聞』2020年6月2日付に、「コロナで変わる経営・人材管理-押さえつけ型から転換」(11ページ)を寄せておられる。
同教授によれば、「在宅勤務の推進は、従業員を押さえつけて管理するという企業文化を変えるきっかけになるかもしれない。『ポジティブ心理学』という分野が改革に役立つと考える。仕事に取り組む際、個人の感情を(が=引用者)占める比率や、部署の雰囲気がポジティブ対ネガティブ比で3対1になると生産性が上がる」と(同上、11ページ。以下同様)
このご指摘は、従来、M.ウェ-バ-や、彼の着想の中にあった、20世紀における「科学手管理法」を応用した「支配の社会学」が、転換点に立つことを示唆している可能性が高い。というのは、M.ウェ-バ-が「ヘル」と呼んだ経営管理者が「経営に関する『全体情報』を独占し、分業によって仕事をする勤務者には『部分情報』のみを与える」システムこそ、管理者が勤務者を支配できる基盤であるとする学説が普及してきたからである。
かれは、これを「支配の社会学」と呼んだ。
科学的管理法の場合には、管理者が、勤務者に仕事を課すとき、勤務者が機械や工具を使って作業するとすれば、原材料を取り上げて加工を始めるまでの時間、加工を行う時間、加工を完了して、製品や半製品を次の作業者に渡す時間など、「作業に必要な時間」を作業工程ごとに「科学的に」測定する。そのうえで、勤務者が熟練した人物であるのか、どうか、あるいは、仕事に慣れて作業を行うのに、熟練者よりも時間がかかることを「科学的に」確定する。管理者は、これらをの情報を集めたうえで、作業工程の「標準的な最速時間」を計算し、この時間以内に仕事を行った人には、割増賃金を支払い、時間内に仕事が達成できなかった人には、時間当たり賃金を引き下げる。
管理に関する情報は、経営者が独占し、勤務者には、標準時間と賃金額しか知らされない。
このシステムは、非常に大きな影響力を持っていて、勤務者同士がより多くの賃金を獲得しようとして、熾烈な競争が始まる。これは、生存競争であって、ついてゆけなければ、賃金額が低下して生活できなくなる。
おなじような「仕事のさせ方」は、販売員の場合など、一か月以内に何件のの契約を取ってくるのか、など、自発性よりも、「生存競争の仕組み」を使って勤務者を管理することとならざるを得ない。これは、従来、経営の常識のようなもので、会社に出勤して、仕事をするときには、このようになるものと多くの人々が考えている。
同教授は、この点について、次のように説明されている。
「『契約をいつまでに何件取らないとペナルティ-を課す』をいったプレッシャーを与えながら人材管理をする企業は多いようだ。ネガティブな感情は人に与える影響が強く、短期的な集中力を高める効果がある。
一方、仕事の中で喜びや楽しみを感じられると、知識や人間関係が形成でき、長期的に状況に適応出来るようになる」と。
つまり、ネガティブな感情に訴える管理方式を1とし、ポジティブな感情に訴える管理方式を3とすれば、最適の管理ができるというのである。
テレワ-クや在宅勤務が、ポジティブな感情に訴える管理方式を普及させ得るならば、生産性の向上や、生活の安定につながるのか。今日は、この問題を考えてみたい。(Ikegami, Jun ©2020)