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池上・総合学術データベース:時評欄(39);「経済界からの地産地消論」2020年5月22日
生存競争の経済から、共生の経済へ-経済界からの地産地消論の提起-
「ポストコロナ」という言葉が新聞紙上で乱れ飛んでいる。
今日は、その中から、三菱ケミカルHD(HD=ホルディングス=持ち株会社を意味し、企業が集団となって、事業を行うときに採用するシステムの一つ。通例は、集団に属する各企業の株式会社を束ねる‘株式だけを持っている企業集団のトップ組織’を意味する)社長、越智仁氏の「ポストコロナ・・・激変する世界-サプライチェーン注視-経済、多極化に備え-」(『日刊工業新聞』2020年5月12日付け。1ページ)をご紹介する。
同氏は、「コロナ後の企業活動の注意点は」という質問に対して、以下のように答えられている。
「世界中に網を広げて安い場所から物を買うという今のサプライチェ-ン(商品などを供給する生産企業と、流通を担う企業とのつながりのこと)は、重要な医療・医薬や食糧などは国内生産へと、政府主導で変わるのではないか。まだ具体的な動きはないが、注視する。」
このご指摘には、深い意味が込められているように感じられる。
まず、「世界中に網を広げて安い場所から買う」という企業の姿勢に対する反省ともとれる発言である。
従来とも、企業と言うものは、世界中に網を合って、情報を集め、「安いもの」を発見しては、大量に仕入れて、コストを下げる。
さらには、賃金の安いところを探して、そこで、物をつくり、安いコストで高い利益を出しては儲ける、という方法を採用してきた。
これらは、生存競争を「価格競争」によって勝ち抜こうとする姿勢の表れである。すこしでも、コストを下げて競争相手を打倒し、将来は、市場を独占することによって、儲けるというのは、「生き残り」を賭けた生存競争市場の特徴であるのだから。
しかし、コロナ後の世界では、従来のビジネス方法は通用しない。
コストが高くなろうとも、「重要な」製品や物資(とりわけ、食糧)は、世界中から探すのではなく、「国内生産」でなければなりたたない。さらに言えば、「地産地消」の考え方を「価格競争」に代わって採用する企業が増加することを意味するであろう。
これは、価格競争という生存競争の方式からの転換であり、コストが安かろうと、高かろうと、生産者の供給するものを重要なものであるとして、尊重しつつ受け入れて行こうとする態度である。これは、生産者の共生を認めて、供給企業が互いに学び合い学習し合って「よりよいもの」を生産しようとする「共生」の考え方である。
このような考え方が出てくる背景を考えてみよう。(Ikegami, Jun ©2020)