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時評欄(17)池上惇「創造経済への道―恐怖の贈り物MMT(赤字公債の累積を容認する現代貨幣理論)への疑問」(2019年7月14日)
ふるさと創生大学で、農業における体験学習を経験し、自然との共生や、人とのつながり。その大事さを痛感している最中に、私の専門分野である、経済学の金融理論に「革命」を自称する理論が登場した。
今日は、この理論が、どのようなものかをご紹介する。
それは、現代の政府が赤字財政や債務の増加を気にする必要はなく、「財政の規模を大きくして、赤字国債を中央銀行に引き受けさせ、中央銀行が際限なく、日本銀行券という紙幣を造幣局で印刷して金融市場に供給し銀行などの資金供給量を増やし低金利を実現して良い。」という主張である。
そして、政府市場での財の購入による景気刺激策や、低金利による資金貸付のブームを起こして景気を刺激して問題はない。
これまで、通常の財政・金融理論は、国民所得の増加という、パイの範囲内で、租税収入を基礎に政府の財政規模を決め、「できる限り、小さな財政規模の政府」を実現しようとしてきた。これは、アメリカ合衆国で、法制化された実績もあり、「小さな政府」にむけた政策は、フェルドシュタインなど、著名な経済学者たちの支持も得てきた。しかし、MMTでは、これらは間違っている。というのである。
端的に言うとすれば、この理論は、オンリー・ワンの質を追求して多品種少量生産システムが生み出す創造経済とは正反対の理論である。しかも、こともあろうに、貨幣という貴重な財を造幣局で大量に印刷して、財の市場価格を操作し、大量消費・大量生産型の経済を持続させようと試みる。
その意味では、、「量産型理論」の典型である。
したがって、この理論を深く理解しておけば、創造経済の持つ特徴が、よりよく理解できるようになるのではないか。私は、このように考えて、MMT=現代貨幣理論(Modern Monetary Theory)を取り上げて検討することにした。
最近の新聞記事で、この問題に触れたのは、2019年7月10日づけ、朝刊『朝日新聞』7ページであった。そこには、ヨーロッパ中央銀行前総裁、ジャン クロード・トリシェ氏の写真とコメントが紹介されていた。曰く。
「(MMT)は、とてもとても危険に見える。MMTの考えは非常に大胆で大衆受けもよい。」 しかし、「この考えはもろい。世界のほかの国が、ドルや円など、その国の通貨を信任してくれるという考えを前提にしたものだ。しかし、(中央銀行が赤字公債などと引き換えに、紙幣を発行して国家が)際限なくお金を使い続ければ、どこかの時点で懸念が高まる。自国民からも信頼を失い、リスクがもたらされることもある。」
同氏の、このような厳しい警告は、赤字公債を日本銀行が引き受け、その対価として、日本銀行券を発行し続けている「日本銀行」の金融政策にも向けられている。
ここで、リスクというのは、政府の債務が累積して、国債への利子が支払えなくなり、慢性的な不景気の中で、限られた税収を基礎とした国家財政では、公共サービスも提供できず、国債利子も支払えず、国家が破産状態に陥ることを指す。
国家が破産すれば、本来は借金である赤字公債を租税によって、返済することは不可能であり、租税で、債務を返済できない国家は、赤字公債と引き換えに発行してきた日本銀行券に対する、自国民や諸外国からの信頼関係を維持できなくなる。
そのとき、例えば、日本社会はどうなるのか。これが、創造経済の構築とは、真逆の「信頼関係がないのに、日本銀行券を増発しつつづける中央銀行」の行為がもたらす「紙幣量産型経済」の末路である。
日本経済に即して、この問題を考えてみよう。(池上惇・©Jun Ikegami 2019)