文化政策・まちづくり大学

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総合学術デ-タベ-ス:個人別研究内容(11)岸本正美 先生;花脊の文化資本研究:内容紹介;池上惇 

厳しい学生時代

岸本正美先生は、私の学生時代を思い起こさせる。

私は、1952年に京都大学経済学部に入学したが、初日に、入り口には「右の者、停学」とかの掲示があった。当時は、学生のストライキなどが頻発した時代で、大学に来るのが嫌になって、京都の繁華街に出向くとか、学生運動に没頭して、授業に出なくなるとかのことが当たり前であった。進路の選択も、迷いに迷う時代である。

岸本正美先生も、1970年前後に、京都府立大学に入学されたものの、当時は、大学封鎖やバリケードの時代である。学生同士で、棒をもって追い回すなどのことも普通であった。先生は、中退を決意された。

京大農学部に転じられて、卒業直前、進路について、いろいろ悩んだ末に、京大ではなく、農業や土地問題を研究しようと、当時、この領域での中心的な存在であった、南清彦先生のもとで、大学院生活を送られた。

和歌山大学院で南先生の励ましとゼミの前後に「日本社会の厳しい現実」を教えて貰ったお蔭で、敢えて博士課程に進むことを辞め、石油ショックで公務員試験が一挙に高倍率になった中にも拘らず、現実的な就職活動に専念できた由。

最終的に京都府下の小学校教諭が一番適切と判断され、佛教大学の通信教育で免許を取り、同じ年に京都府の教員採用試験にも合格。佛大のスクリーリングを受ける中で、当時は小学校の教育もなかなかやり甲斐のある仕事だと思うようになっていた、と、回想されている。

当初は、障がいを持った子ども達の教育について、研究不足でしたが、小学校に勤めながら京大教育学部の田中昌人先生ご夫妻によるの「子どもの発達研究」の分厚い本もボチボチ読み次第に、重要性を理解されてゆかれた。このころ、京大に聴講に来られていて、お目にかかっている。

教員になって10年後、聾学校の教諭になられ、聴覚障害児教育の専門家として、多くの教職員や教育委員会の方々の温かい援助で乗り切ってこられた。

この間、先生を励ましてくれたのは、「身近な地域文化や地域の経済構造」を調査・研究したり、当時は謎に満ちていた花脊や北山の奥地を妻や高校以来、友人であった当時失業中の画家と歩いたりされたこと。

先生は、あれこれ苦闘を繰り返しながら、何とか、ほぼ心身共に健康で定年退職を迎えられ、好きだった自然観察(蝶や深泥池等の観察)も本格的に取り組めるようになり、関連して、経済学にも本格的に取り組める条件が揃ったところで、「市民大学院の開校=2012年」と重なることになる。

池上惇としては、感謝そのものであった。

先生は、京都の周辺地域、農山村にご関心があり、『オタギ学(おたぎ郡の研究)』を受け持っていただいた。「第二の人生における」生き甲斐との、ご評価を頂いている。

先生によれば、劣等生だったことが、長生きと今日ある幸せの源泉になったのかも知れず、「人生、皆、塞翁が馬」なのでしょう、と、笑って語られている。

私も、さまざまな人生を経てきたが、深く共感できる。

 

岸本正美先生のご略歴 

1948年 京都市北区鷹峯に生まれ育つ。

1970年京都府立大学中退・京大農学部入学

1974年 京大農学部農林経済学卒業(農業史ゼミ)

1977年 和歌山大学大学院経済学研究科修了(農業政策専攻)

1980年 京大大学院経済学研究科博士課程研究生(西洋経済史ゼミ)中退

1980年~2010年 京都府立各種義務学校教諭を満期定年退職

2010年~2011年 京都市北区の祭祀等の研究レポート作成(「今宮祭り」・「やすらい祭の研究」・「深泥池の多方面からの研究」等

2009年4月~市民大学院教員・研究員「オタギ学」・「地域文化史」担当               「文化経済学」「マクハーグ研究会」等に熱心に受講

 

主な論文(共著も含む)

「日本各地の農業経営調査(仮題)」(京大現代農業研究会での4年間に及ぶ共同調査・研究)1970年~1974年 毎年、全国の農学系ゼミナール大会で発表

「日本農業と蜷川民主農政」(学士卒業論文)1974年

「農業危機と日本の農業政策」(修士論文)1977年

「ピジン語・クリオール語と手話言語研究」(中西喜久司氏との共同研究)

文部省研究費助成論文 2000年頃

「深泥池の地学的・生物的・民俗的研究」(自家出版)2011年

「やすらい祭研究」「4つのやすらい祭」「愛宕信仰と京都の庶民」等を『オタギ学』にまとめて発表(市民大学院で出版)2016年

「花脊の文化資本研究」(松上げ等の京都市花脊の祭祀を中心に)2020年(国際文化政策教育研究学会誌 9号に掲載予定)

 

(©Ikegami, Jun 2020)

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