文化政策・まちづくり大学

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時評欄(16)池上惇「創造経済への道―ケイブズの創造産業論から学ぶ―」(2019年7月10日)

ふるさと創生大学が昨年5月に発足して、約1年が経過し、学舎が完成して、裏山に「哲学の道」が誕生し、学舎を活用して、地元の、「さなぶり」が催された。また、隣家の篤農家から、広い田畑の無償提供をお受けして、キュウリやトマト、カボチャ、サツマイモなどの農産物を、体験学習のとき、藤井先生のご指導で植えてきた。早くも、キュウリの収穫(2つ)があって、池上にお送りいただいた。感謝あるのみである。及ばずながら、長靴と農作業服を身に着け、体験学習に参加してきた、甲斐があった。収穫の歓びは、本当に、凄いものだと実感した。自然の恵みと一口で言うが、その実感は、収穫物を手にして、はじめて、湧いてくるのである。

これまで、気仙住田のような被災地の山の中に学舎を創って、何をするつもりですか。との、ご質問を受けることがある。「いや、被災地だからこそ、復興へのささやかな一歩ですよ」とのご説明をしてきた。では、復興への道筋は、どのようなものですか。といわれるので、つぎのように、お応えしてきた。

「学舎を創りますと、まず、地元に、建築の仕事ができます。ご寄付頂いた資金からですので、大きな金額とは言えませんが、それでも、3千万円あれば、古民家を気仙大工の腕前を継承しつつ、仕事として、人を育て、地元の資源を生かし、お金を回すお手伝いができます。地元の職人の文化や技を継承し発展させる機会をうみだして、職人や経営者が身につけられた文化資本を維持し、発展させる。これを文化価値といいます。

この文化価値を維持し生み出す過程は、同時に、お金が回り、経済的な価値が生まれる過程です。文化価値を身に着けた職人らが消費財を購入して、健康を維持できれば、消費市場が拡大し、同時に、建築材料など、資本財を工務店が購入されれば、資本財の市場が生まれます。

消費財が農産物で、生活の質を上げる、栄養があり、品格があって、市場や住居の雰囲気を文化的なものに高めてくれれば、生命、生活活動の中に、美や芸術文化の要素が入ってきて、人々の健康な顔や、食卓の豊かさが生まれるのです。資本財もまた、生活の中で、輝くような立派な素材を選ぶとしますと、住居は、風格のある、素晴らしいものとなるのです。

このように、学舎を創設することは、地域の文化と経済に大きな影響を与えます。今後、学舎周辺に「哲学の道」ができて、学舎に、生涯学習用の図書が入り、幼児から超高齢者まで、学習の機会が生み出される。そうなれば、さらに、文化と経済への影響が大きくなります。そして、学舎の魅力によって、都市から農村への移住希望者が増えて、人口増をもたらす村が、五葉地区にうまれたならば、文化と経済への効果は、さらに、高まるに違いありません。文化と経済が共振する世界。このような世界を、創造経済と呼ぶことにしましょう。

今日は、創造経済を生み出す、学習施設、学舎のお話でしたが、このような考え方を、現代産業に適用した、国際的な研究者があります。それは、R.ケイブズというアメリカ合衆国、ハーヴァード大学教授でした。それでは、「創造産業」を研究した研究者の著作から学ぶことにしましょう。(池上惇・©Jun Ikegami 2019)

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