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総合学術データベース:時評欄(79)ホ-ムペ-ジ用;池上惇「生命・生活を潤し、大災 害をもたらす水問題を考える」

質世界における「水」と「緑」の位置

 

これまで、エネルギ-問題を取り上げてきたが、このとき、一つの話題として、K.E.ボ-ルディングによる問題提起をご紹介した。

それは、彼が、資本・労働・土地という従来の「生産の三要素」に代わって、「ノウハウ・物質・エネルギ-」という、新たな「生産要素」を提起したという話である*。

 

*K.E.ボ-ルディング(1910-1993)は、イギリス生まれで、アメリカの学会で活動し、進化経済学という新領域を開拓した。近代経済学、マルクス経済学に通じているが、マルクスについては、『資本論』研究の結果、初期資本主義の批判としては有効性を認めると同時に、「資本・労働・土地は、分配の要素ではあっても、生産の要素ではない。」と指摘し、さらに、「マルクス主義者たちにおける、社会問題解決の手法は、人間的な自由の喪失や、暴力革命を容認している点で、あまりにも、大きすぎる犠牲を伴っているように見える。」と指摘した(K.E. Boulding, Towards a New Economics, Critical Essays on Ecology, Distribution and Other Themes, Edward Elgar, 1992, p.19. pp.36-38.)。そして、彼は、従来の経済学では、異質なものを、相互に関連付けずに、土地、労働、資本を、生産要素として取り扱ってきたこと。生産の要素という場合には、生物学的には、遺伝子を考慮し、社会的には、人間の心や、構想力などの動きによって、「ノウハウ=生産のための構想」を人から人への学習によって継承し発展させること。継承や発展には「学習の場や時間」を考える必要があること。ノウハウを活かし,エネルギ-によって力を加えつつ、物質を加工してこそ、商品やサ-ビスを生産できること。それゆえに、生産の要素は、「ノウハウ・物質・エネルギ-」であること、などを解明している。

 

この三要素のなかで、物質を研究の対象とするとき、水という物質は、地球上の、泉、河川、海、などにおいて、大気の温度が低下すれば氷となって水を保存し上昇すれば解氷によって、水を生命体に供給しつつ、蒸発すれば、水蒸気となって上昇し、上空の温度が低下すると雲を生み出し、雲は雨や雪となって森林・大地を潤す。

生命体は、このような水の循環よって支えられる。

森林は豊かな「緑」を生み出して、水を貯蔵し、清らかな水をヒトの生命・生活に供給する。

豊かな緑は植物の光合成によって、ヒトや動物が放出す二酸化炭素を吸収し、清浄な大気を生み出して、ヒトの呼吸を健全化する。

しかし、森の育成をヒトが怠れば、水は大雨となって、河を溢れさせ、しばしば、大水害をもたらす。森が二酸化炭素を吸収しなくなれば、大気中の二酸化炭素が増加して、太陽熱の下では、大気の温度を上昇させ、地球温暖化をもたらす。地球温暖化は南極などの氷を溶かし、海水面を上昇させて、海岸付近で生活する人々の仕事や生活を脅かす。さらには、海水面の温度が上昇すれば、発生した台風の規模を大きくし、地震による津波の規模を拡大して、大被害をもたらす。

また、森のない「砂漠のような都市・地域社会」は、しばしば、水の枯渇や、不足に陥る。

人工的に貯水池・ダムをつくり、水を貯蔵することはできても、万能ではない。

『日刊工業新聞』によれば、2022年5月に、愛知県豊田市における工業用水道施設で起きた大規模漏水事件は、設備の老朽化、工場の海外移転による契約数の減少に直面していた*。工業用水だけでなく、農業用水も供給できなくなったのである。

 

*『日刊工業新聞』「高まる工業用水リスク」2022年6月2日「深層断面」特集記事、28ページ。

 

「水」と「緑」が「ヒト」を通じて調和し、三者が「共に生きる世界を創る」こと。これなしには、人類は永続的な発展を実現できない。

 

ヒトが「呼吸すること」と「飲食をすること」とは密接に関係する

 

ヒトにとっては、日々の「呼吸」と「飲食」は、睡眠などと同様に、欠かすことのできない営みである。

ヒトは、呼吸を通じて、大気中の酸素を身体内に取り込む。肺が肺胞を通じて酸素を捉え、肺動脈を通じて全身に送られる。他方、大気中の窒素は身体内部では、活用が難しく、廃物として静脈を流れてきた「二酸化炭素=CO2」とともに、空気中に排出される。

血液中に取り込まれた酸素は、食物として取り込まれた「糖質」を分解して、その際に、発生するエネルギ-を、ヒトが生命を維持し生活を続けてゆくための「力」とする。ヒトは、この「力」を筋肉や神経などの「緊張」や「ゆるみ」の際に、必要に応じて活用している。

このような「糖質の分解」過程は、人体に蓄積された「酵素」によって引き起こされる。酵素による「発酵」によって、体内の微生物が「糖質」などの有機物を分解し、小さな分子を産み出したり、結合したりしながら、化学合成を繰り返し、エネルギ-を生み出すATP=アデノシン三リン酸を合成する。このATPこそ、ヒトの身体内部でエネルギ-を生み出し、蓄積し、放出するなどの総合的な働きをするのである。

呼吸を通じて、エネルギ-を生み出してきた結果、ヒトは仕事や生活に必要なエネルギ-を獲得する。呼吸なくして、人体を動かすエネルギ-は存在し得ない。

この過程で、生み出された廃物は、二酸化炭素CO2として静脈を通り肺から体外に放出される。

他方、鼻や口を経て肺を通る道を活用した酸素ではなく、口から食道を通る食物と水に注目しよう。

こちらの道では、飲食によって、米麦などの糖質、魚や肉などのタンパク質、食用油やバタ-などの脂質などの食物や水分が身体内に取り込まれる。これらは、唾液・胃液・膵液・肝臓から十二指腸に胆汁などによって消化される。消化の過程においても、複雑な化学反応や物質の合成が起こる。例えば、炭水化物グルコースなどの単糖に転換され、タンパク質アミノ酸に変化し、脂肪脂肪酸グリセロールモノアシルグリセロールへと、それぞれ分解される。

分解する目的は、物質を構成する分子を「より小さくして消化しやすくするため」である。より小さくなった分子が担う物質が、ヒトの筋肉や血管、血液、神経などを細胞レベルで創り上げてゆく。

この過程で生まれた、廃物は、直腸から肛門を通過して、体外に排出される。

食物・水分などを通じて、身体を創り上げる営みは、「投入」と「産出」を繰り返しつつ、旧い細胞を新しい細胞に置き換え、ヒトの身体を創り上げる。そして、「呼吸によるエネルギ-の獲得・活用」とともに、ここでも、「投入」と「産出」を繰り返す。

このような「二つの物質代謝」が継続的に発展することによって、健康な心身が生み出されるのである。

このように、ヒトは、呼吸系と、消化系という二つの「物質代謝」を行ってきた。

この両者こそ、ヒトの営みと存在を、日々、支えている二大物質代謝である。

多くの哲学者や思想家の中で、呼吸系に注目したものは、比較的少数であった。

西欧では、イギリス人、J.ラスキン、東洋では、日本人、二宮尊徳が、この機能に注目している。

物質代謝を、消化系のみで把握した思想家は非常に多い。

これは、研究に値する、今後の課題であろう。

(©Ikegami,Jun.2021)

 

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