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池上・総合学術データベース:時評欄(29);「東日本大震災における心の復興から学ぶ」2020年2月2日

東日本大震災における心の復興から学ぶ

-個と共同性のバランスを再生する方向性が発見された-

 

佐々木俊三先生の復興支援活動から

震災直後の凄まじい現場に、東北学院大学の教授が学生たちとともに、駆けつけておられた。

2017年2月、現地で、体験者の声を地元に書き伝えられた、千葉修悦先生から、あらえびす書房刊の『震災学』創刊号と、佐々木俊三教授『随筆と語り 遠来の跫音』(2014年)をお借りした。そこには、佐々木教授の御自宅でのご経験と震災現場での発見が記録され、「裸にされて、互いの氏名も解らぬ人々が高台の仮設住宅に逃げ込んだ」状況が、心を込めて正確に描き出されている。

教授が荒廃した我が家に戻られた時、それまでの「物質的な豊かさのヴェ-ル」に覆われた生命と生活のありようは一変した。衣食住すべてにわたり、文明の利便性に守られ、同時に、人と人とのつながりを忘れた、エサの様に食事を扱い、流行・お仕着せの衣料品に包まれ、出所不明の木材でつくられた既製品の家を買う。

人としての出会いや‘つながり’を忘却し、モノを選んで生きる冷たい仕組みは一瞬にして崩壊した。文明は、生誕や離別、死さえも、形式化され、標準化され、危機感を遠ざける仕組みを生み出していたのだが、それは、大自然の猛威の前には、なすすべもない。人々は、生まれたままの「裸の個人」として、荒廃した「瓦礫(がれき)」のなかに投げ出されたのである。

このとき、個人は、忘れていた「共同性」を取り戻す。

「奇妙にも、普段はお付き合いも無い近隣の方々が、それぞれに足りないものを持ち寄り、手助けしてくれる光景に出会いました。」

まさに、困ったときはお互い様。結いの精神。「助け合いの共同性」が再生したのである。文明生活と利便性の陰に隠れていたものが人間の潜在能力として、いま、復活したのである。この復活によって、生誕時の痛みを互いに理解し、別れの悲しみを理解し、死別の苦しみを理解できる人間が再生する。そして、痛みを伴いながらも、新たな生の誕生を歓び、別れの悲しみを受け止めて、再会の歓びを期待し、死別にもかかわらず、もう一つの世界に心を通わせ、共に生きようとする勇気を持つに至るのだ。

「数日を経て、散り散りになっていた家族も集まってきて、ろうそくの光とコンロで、頂いたご飯を暖め、まるで、昔、人々が夜、炉端の周囲に寄り添いながら食事をした原初の光景に帰ったかのような、小さな温かさの集いとなりました。懐かしい親密さの経験です。」

このような光景が持つ意味を、佐々木先生は、さらに、食文化や住文化の持つ、本来の意味の再生・復活として描き出されていた。その内容は、現代の人類学が示唆するものと重なってくる。(Ikegami, Jun ©2020)

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