文化政策・まちづくり大学

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池上・総合学術データベース:時評欄(28);「人生こそ‘文化と経済を生み出す元手’」2020年2月1日

冨澤公子・ラスキン・二宮尊徳の「人生こそ‘文化と経済を生み出す元手’」の思想

奄美からの研究報告

冨澤公子先生のご研究によれば、現代の日本社会において、「健康長寿・合計特殊出生率向上」、つまり、長寿者たちが健康であり、次世代を担う赤ちゃんたちが着実に誕生している社会は、九州の南端、海上に点在する奄美群島の地域コミュニティ、生活の最小単位である「シマ」と呼ばれる「小さな地域社会」であった。

世帯数から見ても、せいぜい、80軒内外にすぎない「シマ」*。

この小さな自治の単位において、なぜ、「健康長寿と赤ちゃん誕生」の二つがともに実現しているのだろうか。 

冨澤公子『奄美群島における長寿の地域要因と支援要因の分析』国際文化政策研究教育学会編『国際文化政策』第10号(2019年8月)

 各個人の、ともに生きる人生こそが、貴重な資産である=文化資本の思想

 冨澤論文によれば、そこには、奄美地域固有の要因として、長寿者が地域における智慧の蓄積者として尊敬され、伝統的で創造的な祭事や生活習慣、生産や生活のノウハウを身につけた「人生の模範」として「次世代から学習の対象となっている」という事実がある。

つまり、長寿者は地域の、よき習慣や文化活動などを通じて、あらゆる世代に、「学びあい育ちあい」の場をつくりだされる。そして、自然から学びつつ、自然を知る中で、創意工夫されてきたのだ。

この過程で、高齢者層の智慧や術が心身に蓄積されてきた。さらには、判断力や熟練・技巧と技能・技術など、「人生の中で心身に構築してきた価値ある資産=文化資本」を担われてきたのである。

これらの「目に見えない」貴重な資産が次世代に継承・創造され、学びあい育ちあいの関係を生み出すなかで、健康長寿は達成されていたのである。(Ikegami, Jun ©2020)

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