文化政策・まちづくり大学

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池上・総合学術データベース:時評欄(87)ホ-ムペ-ジ用;池上惇「人と自然の資本を経営する―人的資本経営における‘技術を生かす文化資本’の意味を問う」

はじめに‐人と自然の資本を経営する-

 

イノベーション志向の時代

 

企業が激変する、世界的な社会・経済環境の中で、競争力を維持しつつ、企業の永続的な発展(sustainable development)実現するには、環境・社会問題を解決しつつ、公正競争を行い、利益と採算性を着実に挙げてゆくこと。

この現実に、注目が集まる。

特に、コロナ禍のなかで、テレワークが普及したので、そのなかで、週休3日制度など、従来の日本社会では、想像できなかった世界、生活者の権利を尊重する時代の幕開けが見えてきつつある。

いわゆるデジタル化の影響は、生活者だけでなく、生産現場にも急激に普及し、リスキリングが、厚生労働行政とのかかわりもあって、驚くべき速度で、マスコミにも影響を与えた。

さらに、環境問題の深刻さと、グローバルな規模での応答が開始された。

従来、日本の環境応答型技術は、すでに、世界的な評価を得ており、有名なカリフォルニア州の厳しい環境基準をホンダの乗用車がクリアした実績を持つ。

ソニ-やホンダなどの戦後日本経済を代表し得る企業が連携する時代も始まっている。

その意味では、生活の権利など、人間生活に関わる問題が浮上しつつ、同時に、自然環境への負荷を軽減する大規模な、企業と公共政策との連携が始まった。

そのためには、経営者・社員が「イノベーション志向」をもつことが求められる。

今回は、経営者・社員が、「イノベーション志向」を学習いつつ育ち得る企業環境の発展過程を研究する。

 

人的資本経営と「文化資本の経営」

 

そして、その際に、現代経営学の焦点に浮上してきた、人的資本経営を取り上げる。

私は、従来、福原義春先生が提起された「文化資本の経営」という概念の開発過程に参加し、これを中心に研究を進めてきた。

そのなかで、文化資本論の大きな学術的貢献は、「個々人が持つ文化資本による経済資本の制御」という着想であったことを発見する。

現状では、「人的資本の経営論」も、また、「人的資本による経済資本の制御」過程を論じられている。同時に、「文化資本の経営」と「人的資本の経営」とを比較してみると、一方は、「仕事や生活における芸術文化の導入や、デザイン経営」を重視するのに対して、他方は、「人事や、人事管理における公開制度の確立」を重視している。

また、両者は、ともに、「企業で働く人々の創意工夫や生活における健康やいきがいを重視」している点では、人間重視の傾向を持つ点で共通している。しかし、一方は、地域や都市における伝統文化や創業者精神を重視するのに対して、他方は、人を雇用して働いてもらう上での「世界標準」の確立を目指してきた。

これらの微妙な差異をから、両者が学びあって、ともに、永続的に発展するには、どのような企業環境の整備が必要となるのか。

さらに、両者は、ともに、個々人の尊重と「個性ある人々が‘ともに、相手を活かしあう経営」を目指していると思われるが、個性が激突しないで、「学びあい育ちあう」関係が生まれるとすれば、経営者は「どのような調和のあるシステム」を構築してゆけばよいのか。

これらの点に目を配りながら、研究を試みる。(©Ikegami,Jun.2023)

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