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総合学術データベース:時評欄(78)ホ-ムペ-ジ用;池上惇「新エネルギ-社会を実現 する二つの道」

再生可能エネルギ-・水素エネルギ-社会への大転換-その前に立ちはだかる「大きな困難」

 

地球環境問題に突き動かされたかのように、石油・石炭エネルギ-から、再生可能エネルギー・水素エネルギ-への大転換が進行中である。

このような動向は、

1)19世紀前半における、世界規模の産業革命における蒸気機関の発明と応用、枯渇性の石炭エネルギ-活用による鉄道の活用・普及。それを契機とした、機械を設計するノウハウの開発と鉄鋼など原材料素材の研究、石炭エネルギ-への関心の高まりがある。

2)20世紀前半期における枯渇性の石油エネルギ-が登場し、ガソリン・エンジンの開発と応用が進む。それによる自動車産業の発展と普及によるモ-タリゼ-ションの時代。機械の精密な開発と並行して、石油素材から多くの化学製品が誕生し、安価なエネルギ-源として石油が主力となった時代でもある。

3)21世紀前半期における、地球環境問題の激化。枯渇しない太陽光など自然に由来する再生可能エネルギ-*・枯渇しない大気中の酸素から水素を取り出す場合や、例外的なものではあるが、褐炭などの枯渇性資源を利用した水素エネルギ-の登場。

ここには、自然と共生する幸福社会、well-being への歩みがある。

すなわち、世界経済は、三度にわたるエネルギ-の大転換を経験してきた**。

 

*再生可能エネルギ-(: renewable energy)は、広義には太陽地球物理学的・生物学的な源に由来し、利用する以上の速度で自然界によって補充されるエネルギー全般を指すとされる。

 

**産業の全体像を把握するための、経済学における方法については、大別して、三つのものが著名である。一つは、ノウハウ・物質・エネルギ-から接近する方法であり、経済学史から見ると、R.ヒルファ-ディング『金融資本論』以後、金融資本という概念とともに発展してきた。この概念を解明するために多くの研究が行われたが、実証的な研究の中でも、最も注目すべきものは、呉天降『アメリカ金融資本成立史』有斐閣、1971年である。同書は、アメリカの鉄道事業が、①機械工業など産業分野の発展を主導し、②長期金融など、金融市場の変革を導き、③各地の商品市場、サービス市場などの交流やコミュニケーション過程に大きな影響を及ぼしたことを実証された。もう一つの方法は、コ-リン・クラ-クが開発した、第一産業(農林漁業、鉱業など)、第二次産業(製造業)、第三次産業(サービス業)という分類である(C.クラ-ク著・金融経済研究会訳『経済進歩の諸条件』日本評論社、1945年)。そして、第三のものは、A.トフラ-によるもので、農業社会、工業社会、情報社会の順に、社会の進化過程を研究しようというものであった(A.トフラ-著・徳岡孝夫監訳『第三の波』中央公論社文庫、1982年)。

 

このような大転換期には、交通・通信・情報などの社会に共通の経済基盤を提供する産業に大きな変化が起こる。

例えば、19世紀前半には、鉄道事業の発展が起こり、ここでは、産業・金融・地域における大変化が仕事や生活を変革した。すなわち、

  • 鉄鋼(機械工業と連動する)と石炭(エネルギ-産業に関連する)に代表される産業分野の新展開。
  • 鉄道事業への融資に関連した、金融業界の再編成(長期金融や国債などの発展)。
  • 地域間の情報・物資・人の交流を呼び起こす交通事業(地域資源や人材の開発等)など、

産業・金融・地域の三分野における大変化が生まれる。

これらは、単なるエネルギ-転換ではなく、発明や発見を基礎とした研究開発、ビジネスの組織的な変化、経営などのマネジメント、など、端的には、「ノウハウ」と呼ばれるものに画期的な変化が起こる。

ノウハウが変化すると、産業や金融、地域で利用される物質素材に革命的な変化が起こる。

さらには、エネルギ-源と呼ばれるものに大きな需要が発生する。

鉄道の場合には、蒸気機関が発明され応用されたことによって、全産業のノウハウ・物質・エネルギ-に大きな変化が引き起こされて波及していった。この三つを「産業の新たな三要素」と名付けたのは、K.E. ボ-ルディングである*。それまでは、生産や産業の三要素と言えば、「資本・土地・労働」であった。彼は、従来、「労働」とだけ呼ばれているもの中に、「ノウハウにおける創造性・再現可能性など」を見出し、資本と呼ばれてきたものを、物質素材から見直している。そして、「エネルギ-」を現代科学の成果を踏まえ、その重要性を評価して、独立した項目とした*。

 

*ノウハウ・物質・エネルギ-を、産業の三要素として定義したのは、K.E.ボ-ルディングであった。K. E. Boulding, Towards A New Economics, Edward Elgar, 1992, p.19.

 

二度目の大変化を呼び起こした、ガソリン・エンジンは、自動車と道路を通じて、産業・金融・地域を変化させた。

そして、いま、三度目の波が世界を巻き込んでいる。

 

三度目のエネルギ-転換期における困難

 

ところが、まさに、その最中に、アメリカ合衆国主導の新冷戦がウクライナ危機を契機にして急浮上してきた。

ここで、事態は急変する。一方では、これまでの西欧・日本などにおける「ロシア依存型の石油・液化天然ガスなどにおけるエネルギ-供給システム」は、根本的な見直しを迫られる。経済安全保障システムと呼ばれる、「新冷戦」のもとでのエネルギ-供給システムは、本来ならば、「徐々に」進むはずであった、エネルギ-転換を「急激に」進めざるを得なくなる。

しかも、事態は複雑化する。

「急激に」転換を進めようとしても、今、必要な石油や液化天然ガスの価格が急上昇してしまった。

これは、企業や市民生活に、大きな経済的負担を課す。

それではというわけで、負担を軽減しようとすれば。

結局は、財政支出による価格差補給金などに依存することにならざるを得ない。

ここで、価格差補給金などの補助金を支出すれば、唯でさえ深刻な財政危機を一層激化させてしまう。国債の増発と中央銀行の引き受けが進めば、通貨量の供給増加は避けがたい。

これは、資源不足による危険なインフレ経済を、さらに、「火に油を注ぐ」結果になりかねない。これは、明らかに、「ギャロッピング・インフレーション」への通路を開くことである。

新エネルギ-への大転換は、この「新冷戦による石油などの価格騰貴」と「財政危機によるインフレ」という大障害を乗り越えながら、財政危機・国家破産という危険な兆候を覚悟しながら実行せざるを得なくなった。

これは、非常に危険な歩みである。

大転換が進む前に、財政が破綻すれば、いわゆる「ギャロッピング・インフレーション」が市民生活を直撃する。700倍などという恐ろしい物価騰貴が現実のものとなる。

このような危機状態が事前に予測されるとき、一方では、再生可能エネルギ-社会への急速な転換を進めつつ、他方では、深刻化する財政危機に対処するには、どうすればよいのか。

経済学を研究する、すべての有志が、この深刻な課題に向き合わざるを得なくなった。

このような状況に直面した時には、水素社会への道を、より深く研究しつつ、経済安全保障の枠組みを解明し、その上で、財政危機と国家破産を防止し得る新たなシステムを構築せざるを得ない。

そこで、まず、再生可能エネルギ-社会実現への動きを研究しよう。

(©Ikegami,Jun.2021)

 

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