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総合学術データベース:時評欄(74)ホ-ムペ-ジ用;池上惇「ウクライナ危機を克服す る道は-ケインズ主義を超えて—」   

「特別寄稿」から考える

 

2022年3月28日付『日刊工業新聞』は、同紙、30ペ―ジにおける特集欄に、津上俊哉氏(日本国際問題研究所客員研究員・現代中国研究家)による「特別寄稿」を掲載した。

同氏は、中国の研究家として、中ロ関係の今後について、明確な見通しを持っておられる。

それは、米中対立時代における、ウクライナ危機に対する中国の微妙な立場を解明する端緒ともなり得る内容であった。

同氏は、寄稿された文章のなかで、次のように述べられている。

「改めて考えると、自由貿易ルールは、本来、信頼できる相手との間でないと成立し難い仕組みなのではないか。GATT(関税及び貿易に関する一般協定)体制には旧共産圏が加わっていなかった。それが「グロ-バル秩序」になったのは90年に冷戦が終結し、94年に設立された世界貿易機関(WTO)が旧共産圏を包摂するようになってから、四半世紀の歴史しかない。

それを支えてきたのは、米国一国が主導する冷戦後の国際秩序だった。当初は中国も圧倒的な力の差がある米国に従っていたので、ある種の信頼関係が成り立っていたが、中国が経済発展して自己主張を強めるにつれて、信頼関係が廃れて自由貿易が後退し始めた。

 

アメリカ中心主義の限界-「自由貿易体制の危機」と「‘世界の警察官’政策の中止」

 

米国は、自由貿易体制に距離を置くだけでなく「世界の警察官」役からも身を退きつつある。米国主導の国際秩序は幾多の不合理を抱えながらも世界がバラバラにならないように、樽を締める箍(たが)のような役割を果たしてきた。だが、米国の国力の相対的低下、米国内の分断深刻化により耐用年数が尽きつつあるようだ。

米国に対抗姿勢を強める中露両国、自由貿易の退潮、ウクライナ危機などは、みな箍(たが)が解体しかかっていることを示唆している。」(同紙、30ペ-ジ)

以上のような、同氏の「世界経済・世界政治を見る目」の鋭さには、敬服のほかはない。

このような研究の基盤があれば、今後の日本の歩む道についても、ある程度の見通しができてくる。

同氏は、今後の日本社会について、新冷戦や、対ロ、対中経済制裁などの動向が対岸の火事ではなく、需給関係のかく乱、不況時の物価高、貿易困難、コロナ禍など、経済危機の中での、経営という難題が待ち受ける。

さらには、その最中での、経済安全保障、人権、国連の持続可能な開発目標などが次々と提起されて、日本だけでなく、世界中の企業に経営方針の見直しを迫っている。「ウクライナ危機は、この混乱にとどめの一撃を加える。」と。

 

中国飛躍の背景にあるもの

 

今回の事件では、中ロ両国の関係が改めて注目されている。

中国は、ロシアのウクライナ侵攻には距離を置きつつも、米国に協力して経済制裁を加える状況ではない。

むしろ、ロシアが欧米からエネルギ-供給源としての地位を失っても、それに代わるべき、大きな市場を提供し得る。

さらに、中国はロシア以上に、「一帯一路構想と実践=中華人民共和国が2017年から推進し続け、中国と中央アジア・中東・ヨーロッパ・アフリカにかけての広域経済圏の構想・計画・宣伝などの総称」に、象徴されるように、中国一国にとどまらず、世界的な規模での広域経済圏を構築する動きを伴っている。

中国における、これまでの飛躍的な経済発展をもたらしたもの、それは、社会主義諸国の伝統的な考え方を根底から覆して、「創造的なアイディアを生み出し、イノベーションを起こし得る‘私的所有’制度」を公然と導入し、普及したことであった。中国は、香港や台湾問題を抱え、一党独裁システムを捨てていないと欧米から批判されつつも、急激な技術革新と経済発展を基礎として、私有制の持つ、経済発展への貢献を活用しつつ、「共同富裕論」を提起して、大規模な「所得の再分配」を行い、国民の生活水準を画期的に改善しようとしている。この道は、かつて、イギリスが「‘ゆりかご’から、墓場まで」の大規模な所得再分配政策を実行し、一旦は成功したように見えながら、1980年代に、サッチャー政権による「新自由主義」に敗れ、大規模な社会的混乱を引き起こした末に、政策を変更した経緯がある。

 

「アメリカ後」の世界

 

現代中国がこのようなイギリスの経験をどのように受け止めているのか。今後の研究が期待される。

これまでの、アメリカによる世界の覇権者としての地位の低下(とりわけ、アフガニスタンにおけるタリバン政権の復活を許すことに象徴される)に対して、中国が台頭し、国連とも協調しながら発展を継続するとすれば、今後の世界は、どのような変化が起こり得るのか。

それが、国連に示される、大多数の国々における「満場一致」の意思決定を推進し、国連安保理における拒否権発動に代わる、新たな動きを生み出すのか。どうか。そして、このような方向性が見えてきたとしても、それを実現するための世界的な世論や、世界市民における合意形成過程は、どのようなものとなるのであろうか。フェイク・ニューズに支配されない、健全な世論形成は、どうすれば、実現するのか。そのとき、「アメリカ」における「トランプ現象」に象徴される世論操作が大きな影響力をもつ現状を克服するには、どうすればよいのか。

今回の、ウクライナ危機についても、ロシア側の報道は、「ネオナチ」が、分離・独立派の市民に対してテロ行為を行ったにもかかわらず、ウクライナ当局が取り締まりを行っていないことを軍事介入の理由の一つに挙げている。

フェイク・ニュ-ズを否定し、真実を基礎に、個々人が個性を発揮しつつ、譲り合って、合意を形成する雰囲気は、どのようにして生み出されるのか。

日本社会の、長きにわたる経験から、世界に貢献し得るものがあるとすれば、それは、何か。

などなど、疑問は尽きない。今回は、ウクライナ危機を契機にして問題解明に努める。

(©Ikegami,Jun.2021)

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