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総合学術データベース:時評欄(61);池上惇「コロナ禍におけるESG投資は過疎地域へと向かうか-日本における開拓者精神の継承と発展」

ポストコロナのESG投資は?

戦略国際問題研究所客員研究員、鈴木洋之氏は、2020年6月25日、『日刊工業新聞』に「ポストコロナのESG投資」と題する論説を掲載された。コロナ禍の日本における流行が懸念される中での、今後のESG投資の動向を研究された結果として注目される。

論説では、拡大傾向にあった、ESG投資が、コロナ禍の企業活動の停滞、各国の財政制約の高まり、グリーンプロジェクトの遅延などで減速するとの意見があるが、「大きな潮流は変わることはない」とされる。

その根拠は、今回のコロナ禍が次のことを明らかにしたからだとされていた。

  • 企業活動がバリュ-チェ-ンにまたがるステークホルダーとの連接性をもつこと。すなわち、これまでは、「モノ」が取引されていると思っていたが、コロナ禍のもとで営業活動をしてみると、「モノ」を介して「人と人がつながっている」ことがいかに重要なことであったか、が、分かってくるということである。生産者から、顧客へという最終の消費者への関心が高まり、多くの仲介業者も「顔」をもつ人間として、コミュニケーションや「平素からの交流・信頼関係」が重要な意味を持ってくる。最終消費者との距離が短縮されて、より密接な、財の取引関係、信頼関係、情報交流などが求められる。
  • 従業員との関係も、テレワークなどが導入されてくると、平素からのコミュニケーション関係や、互いの敬意、学びあいや教育のありかたが、一切の仕事と関連して見直す必要が出てくる。
  • 企業が立地する地域社会の人々が健康で安全な生活を送れているかが企業活動に決定的な影響を与える。企業としても、地域の人々の健康や安全に配慮せざるを得ない。それでこそ、地域社会からの信頼を得て営業を継続できる。
  • コロナ禍の危機に直面する各企業に対しては、ガバナンス体制に厳しい目が向けられ、危機管理や危機における事業継続の道を示す必要に迫られる。

急激に変化する「現象」に惑わされない、

起こりつつある事態の「本質」を洞察する力量とは

鈴木氏は、さらに、ポストコロナの社会が体験するであろう変化について、その特徴を、「世界はジャスト・イン・タイムからジャスト・イン・ケースに着目していく。」と指摘されている。

ここで、「ジャスト・イン・タイム」とは、時間に間に合うことを経済効果としてベストであると判断することを意味する。例えば、トヨタ式経営は、部品の納入業者が完成車を生み出すに必要な部品を、「ジャスト・イン・タイム」で、組み立て作業の現場に届くように構想される。ジャスト・イン・タイムこそが、在庫費用を最小にし、作業の継続性を保障するからである。ここでは、部品納入業者の選択において、「ジャスト・イン・タイム」のシステム構想に合格するかどうかが経済契約を確実なものとする。また、消費者に、完成された製品を届ける場合にも、消費者が必要とするときに、「ジャスト・イン・タイム」で届けられるかどうかが重要な意味を持つ。

これに対して、ポストコロナの世界では、「ジャスト・イン・ケース」が経済契約における「事業者を選択する基準」となる。「ジャスト・イン・タイム」は、経済状況が安定していて、事業の継続性が確実であることを前提としているのに対して、「ジャスト・イン・ケース」は、何が起こるかはわからない、先の見えない状況の中で、多様な事態に応答することになる。

ここでは、様々なリスクや変化の方向性を計測し評価しながら、製品やサービスの「現象」だけでなく、変化の背後にある「本質」を洞察する力量が経営者に求められる。

さらには、契約相手である、事業者や消費者が、変化についてゆく力量を持っているのかどうかを含めて、パートナーとしての安定性、信頼性を基礎とした、的確な判断をも必要とされるだろう。

経営者が、このような力量を持つためには、個々の「ケース」を詳細に研究する能力や、先覚者の経験や理論から学習して「必要な時に必要な知識を参照し得る読書力」なども、身につけてゆくことが必要であろうか。

まさに、「不確実性の時代」における経営力量である。

ポストコロナにおける過疎地への関心-地方には宝の山があるのか-

 コロナ禍は、大都市における過密状況の弊害を徹底的に明るみにだしてきた。

とりわけ、公衆衛生の面から見て、「狭小過密のもたらす不健康状態」「自然との関係性が絶たれた社会の脆弱性」は、誰の目にも明らかとなった。

さらに、情報技術が発展して「テレワーク」の可能性が広がれば広がるほど、旧来のオフィスがもつ閉鎖性や、上意下達・一方通行の経営システム、企業への忠誠型仕事人の無力さが痛感されるようになる。

家庭や地域を基礎とした健康・安全な社会環境や自然環境が再評価され、「消費者・従業員・地域社会も含めた健康・安全への持続的な貢献といった身近な課題に比重が移るかもしれない」(鈴木洋之、前掲)。

1970年代から地方への事業展開を行ってきた、典型的な企業がある。ウキぺディアによれば、大阪府東大阪市で大山森佑が創業したプラスチック製の養殖用ブイや育苗箱をつくっていた町工場である大山ブロー工業所を、1964年に森佑の急逝に伴い大山健太郎が19歳で引き継ぐ。1971年法人化して大山ブロー工業株式会社へ改組。

その後、地方への展開に大きな可能性を発見して、1972年に宮城県南部に新設した仙台工場(現:大河原工場)を主力工場とし、発祥の地である東大阪の工場を閉鎖した。

1989年に本拠地を政令指定都市移行間もない仙台市へ移転し、1991年に現社名=アイリスオーヤマへと改称する。家庭用プラスチック業界における国内最大手で利益率は極めて高いが、現在でも大企業(大規模法人)ではなく中小企業(中小企業者)である。家庭用プラスチック製半透明収納ケースの販売数量が爆発的に伸び会社が大きく成長し、現在は家電製品を主にLED照明や収納、インテリア用品、園芸用品、ペット用品、日用品、資材、食品などを取り扱う。ホームセンターなどに様々な製品を納入するほか、ネット通販企業にも商品を納入する。毎年1000点の新商品やモデルチェンジ品を生み出す。

日本国内13社、中国8社、アメリカ1社、ヨーロッパ2社、韓国1社、ベトナム1社にグループ企業がある。2012年、家電部門を拡大して東芝シャープパナソニックなど一般に大手家電メーカーと呼ばれる企業で職を失った優秀な技術者を大量に採用。自社の持つアイデアと彼らの持つノウハウをミックスしようと考えた。

例えば、シャープでエアコンのエキスパートだった元社員はスマホを使って誰でも簡単に遠隔操作できるエアコンを開発、ヒットさせた。他製品でも同性能なら大手他社の半値程度で売り出し、シェアを拡大させた。

毎週「新商品開発会議」が催され、その場で様々なアイデアが出されるが、アイデアと同等に重要な判断基準は価格であり、客が値ごろと感じる価格にできるかが、製品化の絶対条件となっている。仙台市に本拠を構えるプロスポーツチームと結び付きが強く、2004年よりベガルタ仙台のメインスポンサーとしてユニフォーム胸部分に、2008年からは東北楽天ゴールデンイーグルスのスポンサーとしてユニフォーム左胸部分に、それぞれ企業ロゴを刺繍させている。また、仙台フィルハーモニー管弦楽団も支援している。2012年8月に旧仙台三和ビルディングを全面リニューアルしたアイリス青葉ビルが開業し、5階から8階のオフィスフロアにグループ会社オーヤマの事務所、地下1階にアイリス製品を展示するアンテナショップが2017年2月よりオープンしている。

ケースに応答できる新商品開発の力量

「アイリスオーヤマは、3年以内に発売された新商品が販売中の全商品の5割以上の割合にすることを目標に掲げている」。このことは、現代の市民生活における変化の激しさや、生活の質をめぐる消費者の関心が極めて高いことを意味する。「2018年12月時点では新商品の割合は62%であり、目標を達成している。年間1000点以上の新商品を毎年開発、発売していることになるが、企画から新商品発売までの速さは他社の2倍の速さになるとアイリスオーヤマの常務取締役研究開発本部長は語っている。社長を始め、経営陣、各部署の関係者約50人を前に新商品企画のプレゼンテーションを行う『新商品開発会議』が週に1回開催され、企画の可否が決定される。また、『伴走方式』と呼ばれる商品開発、知的財産、応用研究、品質管理、生産技術といった通常なら順に行われる各部署の作業が同時並行で行われることも、新商品発売までの期間を短くすることに貢献している。2013年、家電事業強化に伴い関西を拠点にしている大手電機メーカー元技術者の雇用目的で心斎橋に大阪R&Dセンターを設立する。2018年、大阪R&Dセンターに続き、関東を拠点にしている大手電機メーカー元技術者の雇用目的で浜松町にアイリスグループ東京本部を設立する」(アイリスオーヤマ – Wikipediaによる)。この企業は、大規模企業で流行の選択と集中ではなく、分散と選択の道を歩み、地方の宝の山を発見して、事業化してきた。このような経営から学ぶとすれば、過疎地と呼ばれる地域を視野に入れて企業の地方進出が大規模に始まっても、不思議ではない。岩手で学校づくりを経験した実績を基礎にして、過疎地の可能性を研究する。(Ikegami,Jun©2021)

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