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総合学術データベース:時評欄(58);池上惇「コロナ・ワクチン開発において日本学術界が先駆者となれなかった理由」

コロナ・ワクチン開発における後進国・日本の不名誉

大阪大学微生物研究所教授、松浦善治先生は、日本における感染症研究が立ち遅れた現状について、つぎのように指摘されている。

「研究者や拠点数、資金の規模が小さいことだ。

米国や中国の疾病予防センターの規模は2万人と言われるのに対し、日本の国立感染症研究所は300人程度。

海外ではバイオテロの脅威に備え、政府からの資金援助や人員確保に積極的だ。日本はこれまで、感染症研究への注目が低かった。ワクチン開発は自国民を守る上で、安全保障の最たるものだ。新型コロナを教訓に、感染症研究を充実させなくてはならない」(『日刊工業新聞』2021年4月2Ⅰ日付、11ペ-ジ)

現在、アメリカの疾病対策予防センターが取り組むべき課題としては、バイオテロだけでなく、以下の項目を挙げることができる。

http://www.cdc.gov/aboutcdc.htm
また、アメリカ合衆国における「疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)」の規模は、職員数、8500人とされている。

ここを中核として世界規模での大きな広がりを考慮すれば、万単位の研究者を組織していても不思議ではない。

いずれにせよ、日本の感染症研究の規模とは大きな差がみられる。

研究環境の大きな格差

では、日本における、深刻な「立ち遅れ」の現実を踏まえて、どのような改革が求められてくるのか。

松浦先生のご示唆は、以下のようであった。

「自由な研究に挑戦し、失敗のリスクを受け入れられる風土づくりが重要だ。日本は2-3年で成果を出さなければ、政府からの補助金が打ち切りになるものが多い。そうなれば小さな研究をやるしかない。また、経済的な問題から博士課程に進学する日本人学生が減少している。留学生の割合が増えており、日本の科学技術は空洞化が危惧される。研究者を大切に育成する環境づくりが欠かせない」
松浦先生が指摘されるとおり、自由な研究、高いモラルや相互信頼関係のある、オープンな研究環境を通じて、学びあい育ちあう関係を構築することは、日本の研究体制にとって、喫緊の課題である。いまだに、自由な研究環境に乏しく、創造的な研究人にたいする安定した地位や待遇確保に必要な水準には程遠い実態がある*。

*日本におけるノーベル賞受賞者が指摘されるのは、国立大学法人の制度化に伴って、若手研究者に対する任期制の導入が行われ終身雇用という安定した研究環境が失われたことであった。受賞者の中には、若手研究者を支援する基金を設立された、2018年受賞者の本庶佑先生がおられる。https://ja.wikipedia.org/wiki/本庶佑の項目を参照。この紹介には基金創設には触れられていない。

大学院の博士課程に日本人学生の進学者が減少していることも、不安を感じさせる。

とりわけ、国家債務の規模がOECD諸国において最大である、わが日本は、コロナ禍の下で、財政赤字の圧力が、さらに、研究システムに悪影響を与える可能性も強まっている。文字通り、八方ふさがりのようにも見えてくる。

では、どうすれば、研究者の層を厚くして、創造性を持つ若手研究者が希望をもって研究に専念できるのか。以下は、主として、経済・経営学、文化政策領域で大学院博士課程の研究教育に関わってきたものとしての経験から生まれた学習の成果である。

(Ikegami,Jun©2021)

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