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総合学術データベース:時評欄(55);池上惇「レジリエンスの時代-生存競争か。共生と‘協働’か」 

はじめに-レジリエンスの提起

最近、政府筋の文書の中に、「レジリエンス」という言葉が目立つようになった。

例えば、政府が中小企業の業態転換などを促進する「事業再構築補助金」を創設。1兆円超の予算で、コロナ禍でも事業が成長する体制への転換を後押しする(『日刊工業新聞』2021年3月2日付、1ページ。見出しは「にっぽん再構築 レジリエンス 11 中小政策 不測の事態、事業継続へ支援」)。

この「レジリエンス」という概念は、前回の時評でも、述べたように、アメリカ合衆国で、1950年代に、精神医療の分野で開発された。

例えば、深刻な病に侵されても、受け身にならずに、積極的に、健康を改善する環境を、自らの力を基礎に、周囲の支援を得ながら構築して健康を取り戻す。

すなわち、病という逆境を転じて、幸福を実現する道を拓く。

この時には、「自分の環境を自分で変える」という転換の思想ともいうべきものが基礎にある。

この覚悟というか、決意というか、ある種の精神的な原動力を持っている人は、周囲や社会に積極的に働きかけ、他人や社会の人々の合意を得て、人間発達(人権を含む)を支える制度を活用しながら、自然や社会の環境を転換する方向に進む。

自然環境では、居住地を変更することもできるし、心を癒すために、植物を植え育て、あるいは、動物との触れ合いの場を作ることもできる。

社会環境では、教育環境を転換して、医師や看護師、介護士などとの学習の機会を創り、あるいは、学校に通うことも出る。

さらには、この考え方を個人の健康回復や幸福増進だけでなく、地域コミュニティや、企業組織などの集団にまで、拡充できないものか。

例えば、中小企業零細の経営環境がコロナ禍や、自然環境の激変、災害、サイバー攻撃、社会問題による社会の分裂など、文字通り「想定外」の経営リスクが増大する。

このような厳しい逆境に直面したとき、廃業するのか、それとも、この深刻な経営危機を、自分たち自身の創意工夫と周囲の支援によって、創造的なアイディア、雇用を維持しながらの経営改革、新たな技術開発や新原材料やエネルギー、水の循環利用などの「再構築」を実現するのか。周囲の支援における基本は、地域コミュニティにおける、自立した個人同士の協働が基礎となる。さらには、地域外からの自由な参画。限界はあるが、政府の補助金も、その一つである。 経営者も労働者も、中小零細企業関係者は、このような深刻な課題に直面する。(Ikegami, Jun ©2021)

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