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池上・総合学術データベース:時評欄(45);「企業経営から、地域経営への発展」2020年6月19日

企業経営における多様性の展開 

一口に企業経営と言っても、その内容は、近年、著しく多様化してきた。

かつては、企業経営と言えば、「利益優先型企業経営」が常識であった。とりわけ、現代の経営においては、株式会社の形をとった経営が典型的な経営であり、それは、株主にとっての利益を最大化して、配当を増加させることこそが、取締役会など、経営の中心を担う企業組織の基本的な課題であった。

しかし、現代の経営は、国連が主導するESG投資の例を見ても、株主などの投資家に対して「環境・社会・企業ガヴァナンス」に対する応答を求める。環境問題に対処しようとすれば、株式会社企業は、利益最優先では経営ができない。利益を上げつつも、同時に、環境問題を具体的に解決しうる非営利要素を伴う企業活動を並行して、実行せざるを得ない。

 

ホンダによる環境規制への応答

実例として、よく事例に挙げられるのは、日本のホンダが、アメリカで販売実績を上げた時の「環境問題への応答」であった。当時、アメリカ合衆国のカリフォルニア州など、環境先進地域は、乗用車の排気ガス規制を強化し、この基準に合格しなければ、自動車販売を伸長しえない状況を生み出して、自動車生産各社に、「厳しい環境規制をクリアしうる乗用車」の生産を期待した。この要請に、真っ先に応えたのがホンダの乗用車であった。これを契機に、ホンダはアメリカでの市場を拡大する。

利益優先では実現が困難な課題である、環境問題などに対して適切に応答しながら、同時に、利益も確保しなければならない。環境問題に対応しながら、並行して、利益を確保するとなれば、環境に優しい、自然環境を害さないで、むしろ、保全しながら、生産技術においては、従来の技術よりも、生産性が高く、公正な競争力において他社よりも優位に立つ必要がある。ホンダは、この真実を実証したのであった。

このような事例は、環境問題などに応答する企業経営が、環境問題への応答を契機として、技術革新、イノベーションを実行し、非営利の課題に挑戦することを通じて、「環境にやさしい技術」を開発し、環境問題への応答が経営の共通課題となるにつれて、生産性の向上による公正な競争力を高め得ることを示した。

さらに、このことは、カリフォルニア州という大きな都市・地域社会において、都市・地域の経営を担う、地方行政の在り方にも一石を投じている。

それは、環境基準を厳しくするという環境問題への応答が、その地域で活動する企業の経営に影響を及ぼし、一方では、営利最優先の経営を制御するとともに、他方では、それまで、企業が生み出していた排気ガスなどの公害を防止して、清浄な大気を生み出す結果となったことである。地域経営の視点からみれば、カリフォルニア州は、域内で、アメリカの自動車会社にホンダに匹敵しうる技術革新を生み出す基盤を提供しつつ、大気を清浄化することによって、市民に、新たな生活のための雇用や身につける技術・技能などの水準を高め、所得の増加や自然環境の改善を実現する地域経営を実行しうるのである。

このような事例は、社会問題への応答においても、観察することができる。例えば、企業が社会問題に応答して、自社の従業員の賃金水準を他社よりも引き上げたとしよう。この場合には、賃金コストの上昇によって、他社との競争力が低下するように見える。しかしながら、この企業の経営において、賃金コストの上昇分を上回る生産性の向上が実現され、製品の価格においても、品質においても、他社を上回るので、それによる競争力の強化、利益の増加を展望できよう。

このように、現代経済では、環境基準を厳しくするという地域の公共団体の意思決定は、海外の企業における「営利と非営利の併存」を促進して、地域内企業の技術革新や賃金の引き上げを誘発し、大気の浄化をも実現するのである。

では、現代企業における、非営利への志向は、どのような形で、日本経営に影響を与えるのか。それが、地域経営へと発展する道は、どのようなものなのか。今回は、この点に立ち入ってみたい。(Ikegami, Jun ©2020)

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