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池上・総合学術データベース:時評欄(40);「フランスの人口学者が語る‘コロナ後の世界’」2020年5月25日

エマニュエル・トッド氏が語る‘コロナ後の世界’ 

 アメリカの大統領が先頭を切って「一国主義」「中国との覇権争い」を始めて以来、厳しい対立の時代が始まった。トッド氏は冷静に、この間の経過を観察されて、つぎのように指摘されている。

新自由主義の公共政策は失敗であった-コロナ感染症が示したこと

「人々の移動を止めざるを得なくなったことで、世界経済はまひした。このことは新自由主義的なグロ-バル化への反発も高めるでしょう。」(エマニュエル・トッド「新型コロナ『戦争』でなく『失敗』」「医療資源を削った新自由主義の限界 既存の変化あらわ」『朝日新聞』2020年5月23日、朝刊13版・9ページ)と。

たしかに、国境を越えて人々が自由に移動する時代は、異文化の自由な交流や、交流する人々相互の「差異から学ぶ」機会を拡大した。観光事業の発展や環境問題への高い関心は、これらの傾向を示唆している。

同時に、経済の自由な交流は、各国が経済交流の障害になると判断すれば、福祉や社会保障制度を空洞化し、犠牲にしてでも、経済交流を促進しようとする雰囲気を生み出してきた。

「経済における自由主義の復権」を推進した各国の新自由主義者たちは、大きな影響力を持って、公共政策を変更させ、「弱者は切り捨ててでも、競争力強化で企業が発展すれば、その恩恵は、いずれ、弱者や低所得層にも及ぶ」と主張してきた。

トッド氏によれば、フランスでも、この30年間、「人々の生活を支えるための医療システムに割く人的・経済的な資源を削り、いかに新自由主義的な経済へ対応させてゆくかに力を注いできた。」(同上)と指摘される。同氏は、これは「新自由主義的な公共政策の失敗」であって、コロナとの戦争などという表現は全く当たらないと述べられている。

 

国際協調から転じた、対立の時代も続く

また、コロナ感染症は、貧困者や弱者を吸収し、同時に、「反人種主義的で」「移民反対を主張する極右政党支持の労働者であろうと、移民であろうと、ともに、生命に危機にさらされる」と指摘された。

このようなご指摘から読み取れることは、 ‘コロナ後の世界’では、福祉や社会保障重視、自国産業保護など、国際交流の価値を認めながらも、国家の枠組みを活用した、福祉と地産地消の傾向を生み出すのではないか、との見通しであった。

そして、このような健全な動きと、アメリカ・中国の覇権争い、イギリスのEU離脱に象徴される、反グローバリズム・キャンペーンが重層的に継続するというのである。

このような‘コロナ後の世界’展望は、これからの日本社会にとって、どのような意味を持っているのか。検討してみたい。(Ikegami, Jun ©2020)

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