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池上・総合学術データベース:時評欄(38);「地域福祉と保健システムの後退と日本社会の未来」2020年5月20日

地域保健システムの縮小がもたらしたもの-世界的な格差と貧困の中で-

厚生労働省健康局保健課地域保健室が公表している統計によれば、日本全国の保健所総数は、戦中・戦後を通じて一貫して増加して、8百50ケ所を越えていたにも、かかわらず、1997(平成9)年以降、急激に減少し、現在は、500ケ所を割る状況となっている。

感染症を克服するには、感染源を特定して、ひとつひとつ、感染の根を発見し、感染した人々を迅速に治療するのが当然である。しかしながら、世界一、清潔を愛する、水の豊かな日本において、「感染したかどうかを科学的に確かめる保健所」を、こともあろうに、縮小してきたとは、一体、どういうことなのか。

実は、この問題、保健衛生関係費用の削減という問題は、日本だけの問題ではない。世界的な、貧困拡大の一環でもある。今回のコロナ禍による人命と社会経済への打撃は、計り知れないほど大きい。とりわけ、社会経済が発展途上にあり、経済成長最優先の状況の下では、雇用が不安定で、大都市にスラムが大規模に存在するところが多い。これらの地域では、もともと、衛生環境が最悪の状況のもとで、感染症に襲われる。WHO(世界保健機構)が、今こそ、世界中から資金を集め、知恵を出し合って、世界の貧困地域の改良に乗り出すべき時期である。

それにも関わらず、WHOも米中の覇権を争う場に転換されようとしていて、アメリカ合衆国が脱退をほのめかすなど深刻な分裂の危機が迫っている。

かねてから、環境問題など、人類の危機と言う深刻な事態に対して、協調と連帯、共生と共存ではなく、生存競争を露骨に提起して、人類の分裂と対立を促進する動きが、アメリカ合衆国を起点として世界的な広がりを見せている。

アメリカの状況は、とりわけ深刻である。白人や黒人の貧困層が、巨大な富裕層による「生存競争の組織化」戦略に巻き込まれて、中間・中流の階層との生存競争に立ち上がり、市民社会が分裂し始めた。コロナ禍が拡大しつつある状況の下で、貧困層による「外出規制反対」の動きが出てくるなど、市民社会の亀裂が深まっている。

コロナ禍という人類存亡の危機にあたっても、この傾向が一層強まっているとすれば、今後、人類社会は、どのような状況に直面するのであろうか。

今日は、この問題を考えることにしたい。(Ikegami, Jun ©2020)

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