文化政策・まちづくり大学

お知らせ

池上・総合学術データベース:時評欄(22);会社人間の時代は終わったのか;「若手社員の半数 転職検討・活動中」が意味するもの

『日刊工業新聞』2019年10月28日付報道によれば、日本能率協会は「若手社員の転職についての考え方について」インターネットによるアンケート調査を行った。調査は、2019年8月23日から9月5日にかけて、入社後半年・2年目を迎えた、20-29歳の男女200人ずつ、合計400人からの回答があった(同上、3ページ)。

「若手社員の転職についての考え方について」

今の会社に定年まで勤める積もり(転職サイトに登録済み60.9%) 21.8%

               (副業・兼業実施中  50.6%)

今のところ、転職することは考えていない            29.5%
現在、転職活動をしている                    3%
転職することを検討中で、近いうちに活動開始予定        12.3%
転職することを検討しているが、特に、行動していない      33.5%

(少数点以下第二位で四捨五入。合計は100とならない)
(「転職サイトに登録済み」は全体の46.8%が「している」と回答。「副業・兼業実施中」は、全体の28.0%が「実施中」と回答。)
出所:『日刊工業新聞』2019年10月28日、3ページ。円グラフ・記事から編集。

 

日本型経営の転換点-バブル崩壊、失われた10年

これまで、1990年代のバブル崩壊のころまでは、日本型経営の常識として、日本企業は、終身雇用制という諸外国に例を見ない、独自のシステムを持ち、年功序列型賃金と呼ばれるように、勤続年数が長くなれば賃金も上がる。

これが、従業員の企業への帰属意識を生み出す、と指摘されてきた。「企業への忠誠心が強い」「滅私奉公の精神がある」「よそ者を排除する排他性が強い」など、やや、前近代的な特徴が強調された時期もある。

また、その一方で、「下積みの苦労が生きてくる」「職場の職人能力が継承されて優れた伝統の技が継承される」などの「苦労が報われて、日本流の職人能力が維持されるという特徴」も評価されてきた。

そして、日本企業の発展を推進し、国際競争力を高めるには、排他性などの前近代性を克服して、社員の平等性や全国的な標準賃金制度や労働市場の確立、人格の相互尊重を進めつつ、企業を民主化すること。これと並行して、オープンなイノベーションの習慣を強化し、個人の創意や発明・発見を知的所有権として確立し、同時に、日本固有の職人能力を生かした、「伝統を踏まえた創造」を実行しうること。このような企業システムが必要とされたのである。

しかしながら、日本企業の実態は、福原義春氏らによる「文化資本の経営」という提起があったものの、「伝統と創造」を結合する改革に失敗する。「失われた10年」という言葉が象徴するように、大規模企業の国際競争力は低下し、アジア諸国からも追い上げられ、企業不祥事が続発して、厳しい局面を迎えることとなった。日本型経営に「迷い」が生まれたのである。

その過程で、逆に、日本型中小零細企業の「多品種少量生産システム」が注目される。従来は、「下請け」と呼ばれてきた日本型中小零細企業群は、今、「伝統を踏まえた創造」の動きをつくりだし、国際的なオープン・イノベーションの波とも連動して、小型高精密、良デザインの個性的芸術的な財を生み出す時代となった。

このような傾向の中で、転職を考える若手が増加する傾向を、どのようにみるのか。今日は、この点を考えることとする。(Ikegami, Jun ©2019)

お知らせ一覧へ戻る