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時評欄(13)池上惇「非正規雇用;2117万人、平成における30年間:総務省発表」2019年4月28日)

雇用身分社会における結婚

2019年4月27日付の朝日新聞夕刊は大久保貴裕記者による「非正規2117万人 平成年間で2.6倍」の記事を掲載した。4面の小記事であるが、位置は紙面中央下、記憶すべき真実である。記事は語る。

「非正規労働者は、2008年のリ-マン・ショック時の派遣切りや年越し派遣村など、平静を通じて正規雇用者との待遇差や不安定な地位が社会問題となってきた。1989年の817万人から18年には約2.6倍の2117万人に増え、いまや就業者数の3人に一人が非正規になった。一方で18年の正規雇用者は3423万人で、30年(間-引用者)で微減した。」と。

これは、恐ろしい事態である。非正規雇用は雇用そのものが不安定である。過酷な労働条件で長時間働き、さらに、職場を転々とせざるを得ない。正規雇用者も、いつ、なんどき、リストラに直面して非正規に転換させられるか。失業するか。常に、不安とともに暮らす。人手不足といわれても依然として失業者は存在する。

これは、雇用という機会をめぐって、座るべき椅子が10脚あっても、3脚だけしか用意しないでおいて、少ない椅子をめぐる生存競争を組織するシステムである。

しかも、現在の日本では、労働者は、正規、非正規、派遣、非派遣、パート、アルバイト、専門職、非専門職、など、多くの身分に引き裂かれ、さらに、身分に応じて、様々な福利厚生のサービスが異なる。教育サービスも、細分化されていて、資格や無資格、学歴などが入り乱れている(森岡孝二『雇用身分社会の出現と労働時間』桜井書店、2019年)。

また、多くの非正規労働者は「派遣された」身分である。派遣労働制度を戦後の日本経済にも復活させて以来、労働者にとっては、派遣事業者が経営者としての責任を持つのか、派遣先の企業が経営者として責任を持つのかが、‘あいまい’になった。厳しく生存競争をさせられながら、そのために、過労となり、病気になり、失業したとしても、つまり、大きな被害を受けても、その責任は「あいまい」なのである。

病気になればリストラは覚悟せざるを得ない。失業や病気に伴う、強いストレスによる健康障害・心理的な虐待ともいえる状況に伴う心身の犠牲は個人が負わされる。そして、個人の犠牲は、社会保険制度や生活保護における保険料負担や租税負担となってすべての勤労者に重い金銭的負担を課してくる。

派遣による非正規労働は、その存在自体が「文化的にして最低限度の生活」を保障した日本国憲法に違反しているかに見える。

年収200万円クラスの非正規の若者男性は結婚できないといわれ、少子化傾向に輪をかける。結婚できなければ、生命・生活の存続自体が危ぶまれる。これを、解決する道はないのか。今日は、この問題を考えてみたい。(池上惇・©Jun Ikegami 2019)

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