文化政策・まちづくり大学

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時評欄(11)池上惇「ラスキンにおける‘仕事の楽しさ’とは」2019年4月21日)

ラスキン記念行事の季節

この4月上旬は、ラスキン研究にとって、画期となるシンポジアムが行われた。

京都には、堀川通という中央道路があり、南北に走っている。観光客になじみの四条どおりから、北に上がってゆくと、丸太町通りという、いま、マンション大人気の眺望の良い通りがある。これを越えると、いわゆる西陣という地域には入ってゆく。

この地域に、旧西陣電話局の建物があり、その一角に、ラスキン関係の小さな図書館がある。シンポジアムのできる広い空間と開架式の図書がセットになり、100人は入りそうな空間。

ここで、佐々木雅幸先生と山崎亮先生の対談式シンポジアムがあった。

佐々木先生は創造都市論における、日本での第一人者、山崎先生は、コミュニティ・デザイン論を日本初で公表された。ここで、ラスキン生誕の記念ンシンポジアムがあるというのだから、19時開始という時間帯も気にならずに躊躇なく参加した。

内容もすばらしいものであった。

佐々木先生は、国際的に著名な、創造都市のモデルとして、ボローニャを、建築物の芸術的な表現のモデルとして、ラスキンが『ヴェネチアの石』で取り上げた職人の仕事や労働を取り上げられた。

ボローニャには、世界初の学生主体の大学が誕生して、芸術と学術を総合化した大学が生まれ、手仕事を主軸とした、多くの職人が科学と芸術を身につけて、イタリアの職人産業を生み出したことが注目される。

ここでの、職人仕事は、職人が自由に芸術的な表現を駆使して、建築物の装飾を行う。つまり、職人が芸術家なのである。ヴェネチアにおいては、ゴシック建築を生み出した、職人の力量が注目される。

仕事が楽しみとなる理由と、市民が成果を享受する時代-創造都市の到来

そこには、「職人仕事の歓びと楽しさを生み出すこと」と、「建築物を持つ、市民の視覚に楽しさを生み出すこと」が、なぜ、できたのか、という問題が提起されていた。

佐々木先生は、ここに、創造都市を生み出す原動力があるのではないか、と考えられたのである。

創造都市における市民の仕事や生活は「楽しい」。苦しみや悲しみではない。

それはなぜなのか。理由は明確である。創造都市は、芸術家や科学者・技術者が集まってきて、交流しつつ、さらに、価値のある創造的成果を交流の中で生み出すことができる。だから、創造都市というのである。

日本では、金沢市が創造都市の第一号となったが、ここでの市民の中心に工芸職人の創造性がある。また、大学における建築教育も注目されていて、創造的な建築物やまちなみを生み出す力量がある。創造都市における職人の仕事や労働が「奴隷労働」ではなく、楽しい仕事・労働であり、職人の仕事の成果が、市民に、楽しさをもたらし得たのは、なぜか。

この提起を受けた、日本、京都でのシンポジアムの状況をご報告しよう。

(池上惇・©Jun Ikegami 2019)

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